ラジエーションハウス のドラマ 第3回では乳がんの画像検査がテーマでした。患者さんは、デンスブレストというマンモグラフィだけでは、病変を見つけにくい体質の方で、超音波とMRIを追加することで正しい診断につながりました。画像検査に携わる身として色々と考えさせられる内容でした。
ちょうど良いタイミングで、勤めている病院のキャンサーボードでの講演の機会をいただきましたので、乳がんの画像検査、特にMRIの有用性について解説することにしました。色々と資料を精査し勉強しましたので、このブログ上でもご紹介しようと思います。
デンスブレストに対するマンモグラフィ
日本の検診では2年に一度のマンモフラフィ での検診が推奨されています。しかし、必ずしもそれで充分とは言えない現状があります。
日本人の40代女性の50%程度がデンスブレスストで、デンスブレストにおけるマンモグラフィでの癌の検出感度が50%程度とすると、100名の40代の乳癌患者のうち25名は早期のうちにみつけられない、、、
ということになります。これは本当に大変なことです。(検出感度とは、病気を正しく発見できる確率です。)
超音波検査を追加しましょう
アメリカでは検診の結果説明で、受信者本人にデンスブレストである旨を告知することを義務づけている州があります。しかし、ヨーロッパやアジアではデンスブレストの告知義務はありません
日本人は人種的にデンスブレストが多いと言われています。したがって、若年の方は積極的に超音波と併用した検診を受ける方が安全です。超音波検査の追加はオプッション設定となっている施設が多いです。ホームページに明記されている施設も多いので、まずはwebでお近くの施設を検索すると良いかと思います。
もし、はっきりとした明記がない場合には、電話での問い合わせをしてみてください。乳がんの診療をしている施設では超音波を全くできないということはないと思いますから、検診での対応が可能かどうか聞いてみると良いと思います。
造影MRIの威力
乳がんの画像検査においてMRIの威力は絶大です。マンモグラフィーと超音波の併用は90%程度の病変の検出感度になりますが、MRIはそれ単体でマンモ+超音波に匹敵する病変検出感度を誇ります。「じゃあ、MRIだけ受ければOKじゃないの??」という疑問が自然とわくかと思いますが、そう単純でもありません。MRIを検診として使いにくい原因を列挙します
- 初期投資が高い。(装置本体、施設の整備)
- 検査時間が長い
- 造影剤が必要
では、MRIが入っている病院に行けば検査を受けられるというと、それも簡単ではありません。保険診療で検査を行う場合には、“きちんとした理由”が必要です。“腫瘍が疑われる”とか、そういったものです。その腫瘍が疑われる理由も、また精査されます。マンモグラフィを既に撮っているか??などです。
では、今後どのようにMRIが乳がんの検診で使われる可能性があるかというと、“ハイリスクグループに対する任意型の検診”、かと思います。まだ、対応施設が皆無に近い状態なので、私見を含めて以下に解説します。
任意型の検診とは??
任意型の検診とは、いわゆる“PET検診”などがそれに当たります。ぜひwebで検索してみてください。かかる費用を全部自分で負担して受けていただく検診です。PET検診であれば10万円程度の費用がかかります。かなり高額ですね。
日本は、国民皆保険制度で、国が費用の2/3を負担してくれますから、病気にかかってのPETはもっと安く受けることができますが、検診は自由診療なので、もろに全額負担です。MRIで考えると3万円前後の価格設定になるのかな??と予想しています。
ハイリスクグループとは??
“がん家系”という言葉を聞いたことがある方も多いかと思いますが、ハイリスクグループとは遺伝的(もしくは遺伝子的)にがんになりやすい体質の方を指します。
以下に日本から暫定的にだされているハイリスクグループの定義です。
⚪︎ BRCA陽性者
⚪︎ 同一家系に二人以上の乳がん患者が存在し、かつ以下を満たす
- 若年(40歳未満)で乳がんを発症
- 両側乳がん
- 乳がんと卵巣がんの両方を発症
- 男性乳がん
- 乳がん、卵巣がんそれぞれ一人以上
BRCA陽性の場合、乳がんの発生リスクが最大で80%程度になります。10人に8人が発症するということです。ハリウッド女優のアンジェリナ・ジョリーが乳がんの予防目的に乳腺の除去手術を受けたのは有名ですが、おそらくBRCA陽性だったのではないかと推測されます。
短時間 乳腺MRI
上記の方は積極的に乳がんを検索する必要があります。欧米ではMRIによる乳がんの検索のガイドラインが定められ、活用されていますが、日本ではまだはっきりとしたガイドラインは制定されていません。特にヨーロッパ(European Society of Breast Cancer Specialist)はMRIに対して積極的で年一回のMRIの検査が勧められています。ちなみに、ヨーロッパでは若年でのマンモグラフィ は、腫瘍発見の効果よりも発がんのリスクの方が高いとして、35歳未満ではマンモグラフィは行うべきではない、とされています。
先ほど、MRIは高コストで時間も長いと説明しました。近年は、超短時間がされたMRIが提案され、高い病変検出率があり、乳がんの検索に非常に有用と報告されております。
図に示すとおり、術前の精密検査(full dynamic protocol)と比較すると1/4程度の時間で終えることができ、正味10分程度の検査時間です。読影も1〜2分で可能との報告がされています。この方法を使えば、時間的なコストは大幅に軽減され検診でのMRIの活用もみえてきます。
町田洋一, 嶋内亜希子.乳房短縮MRI.臨床画像33(6): 706-712, 2017.
現在、国内でも前向きの検討が進んでおり、良好な結果が得られれば一気にMRIによる乳がんの検索が始まるのでは??と推測しております。そして、我々はそれに対する準備を今から行っておくべきだ、と感じています。
国内でもいくつかの施設がMRIでの乳がん検診を行っているようですが、残念ながら、まだ圧倒的少数です。まず、現状で我々ができることとして、自施設で任意型検診(自由診療)での乳腺MRIを受けやすい環境作りを目指そうと考えております。