画像診断、そして、どマイナー医療職の放射線技師をテーマした平成最後の月9ドラマ ラジエーションハウスが放送されています。
CTやMRIなどの精密医療機器、そして数々の専門用語が飛び交っています。
一般の方にもわかりやすい様に現役の放射線技師(@medical_presen)が感想と解説を述べます。
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とりあえず、初見の感想
たくさんのツッコミどころはあるものの全体としては好印象。
一般の方にもわかりやすい様に色々な部分がデフォルメされるのはドラマだから致し方ない、
と思います。
そもそもこのドラマのテーマ自体が、
「正しい画像診断に至るまでには創意工夫が必要」
ということだと、僕は原作を読んで感じています。
裏では画像検査に関わるスタッフ(放射線技師、放射線科医、そして看護師さん、助手さん)なんかが色々と頑張っているんだぞ、というのがメッセージではないでしょうか??
実際、高額な医療機器を使ったところで、操作する放射線技師がポンコツなら全然ダメなのです。
事実、僕らの業界は引き抜きとかも、かなり頻繁にありますしね。
このテーマ部分がしっかり描かれていたことと、本田翼さんが超絶美しいので、
僕としてはAll OKです。
第 1 回のテーマは??(ネタバレ注意)
さて、今回のテーマは、急な頭痛とともに意識を失って救急搬送された男性の頭部MRIのお話。
男性の頭部MRIでは右側に黒い影広がっていて、大きく欠損していた。
その他、きちんと写っている部分には異常な所見はなし。
でも、症状は消えない。この黒い影の中に病気がある??さてどうする??
と、いったところです。
↓MRI T2強調像はこんな感じです。
MRIの黒い影の解説
これは金属アーチファクトと呼ばれるものです。
アーチファクトは、日本語にすると“障害陰影”といったところ。
写って欲しくはない、不必要な影です。
MRIに携わる放射線技師は日々アーチファクトとの戦いです。
今回の金属アーチファクトは頻繁に遭遇するアーチファクトで、
時々ドラマの様な頭部MRIになる患者さんがいらっしゃいます。
MRIは強力な磁石の力で体内の水を整列させ、電磁波でそれを動かし、
その動き方の違いを、コンピューターを使って画像化します。
しかし、撮像する部位に、金属(特に磁石に強く反応する磁性体)があると、一番初めの“水の整列”の部分からうまく行かなくなってアーチファクトになってしまいます。
今回の“スーパー技術”
今回、主人公の唯織は位相画像と解析し、パソコン上で処理することで金属アーチファクトを縮小し、病気の部分を描出しました。
ちなみにこれ、超絶テクです。
ぼくはMRIの専門技術者っていう認定資格を思っていますが、これできません。
日本で数人しかできないのでは??と思っています。
今度、調査してみます。
どんなことを行ったかということを簡単に。
MRIの重要なキーワードに“周波数”と“位相”があります。
周波数と位相は必ずセットで考えます。詳しくはWikiを。
https://ja.wikipedia.org/wiki/位相
MRIで、人体の水を動かすための電磁波の周波数は1.5テスラ装置でおよそ64MHzです。
FMラジオと似た様な周波数ですね。
これが体内の水素原子核(1H)の共鳴周波数といいます。
この周波数の電磁波を当てた時のみ、人体の水を動かすことができます。
ただし、これだけでは電磁波を当てられた部分を詳細に識別できなく、
解剖学的構造がわかる画像にできないので、位相の情報を与えたあとに、
信号を取り出して画像化します。
なので、MRI画像には臓器の状態をわかる画像(強度画像という)、
位相画像が必ずセットになっているわけですが、
位相画像は診断には使わないので普段はみません。
今回、主人公の唯織は、位相画像の情報をコンピュータで読み取り、
その情報から強度画像を調整することで、金属アーチファクト部分を縮小化したものと推測できます。
現実にはMATLABというソフトなどがあれば可能かと思います。やり方は勉強しておきます。
a)強度画像(腫瘍の部分を線で囲っている)
b)位相画像
Hassan Bagher-Ebadian, et al. A Modified Fourier-Based Phase Unwrapping Algorithm With an Application to MRI Venography.
補足が必要かも、、、と感じた部分
10年前の脳動脈クリップはMRIに対して安全です。
今回金属アーチファクトの原因は”10年前の脳動脈クリップ”と“銀歯”のせい、とのことでした。
脳動脈クリップは動脈瘤が破裂しないようにするため、もしくは破裂したものを止血するため、動脈瘤(血管のコブ)を挟む様に設置されます。
動脈瘤の大きさにより設置されるクリップの数や大きさは異なりますが、MRIで診断に苦慮するほどのアーチファクトがでることは稀です。
また、twitterなどで、“10年前の脳動脈クリップにMRIは危険”だとかのコメントがありますが、
国内で使用されているものであれば、MRIの安全性は確認されていますし、現実の診療では検査前に必ず問診をとったりするのでご安心ください。
歯はかなりのアーチファクトになる場合あり
対して、歯は大きなアーチファクトになる場合があります。
僕も銀歯からのアーチファクトが酷く、画像取得に苦慮した症例を何例も経験しています。
また、インプラントもかなりの量の金属が使われているため、MRIを撮る側の人間からすると、
少し厄介です。
以前、脳外科に通院中のおばあちゃんから以下のような質問をされたことがあります。

「脳外科で年に2回ほどMRIを撮っている。今回、歯医者さんでインプラントを勧められたけど、脳外科の診療には影響ないのかい??」
僕は、次の様に答えました。

「正直、撮る方としては好ましくないです。◯◯さんの場合、クビの血管が細くなっている病気なので、アゴのあたりに金属あると血管がかなりみえにくくなる恐れがあります。」
「ただし、日常生活で歯はとても重要なので十分時間をかけて考えてください。」
と答えました。
その後どうされたかは、はっきりしませんが、撮る側の意見としてはこんな感じです。
インプラントは材質もいろいろあるようで、それによってアーチファクトの程度も大きく異なります。
疾患によっては別な検査方法で代用できること多々ありますので、同じ様な状況の方は、
一度、歯科、脳外科の双方の担当医に相談してみてください。


