画像診断、そして、どマイナー医療職の放射線技師をテーマした平成最後の月9ドラマ ラジエーションハウスが放送されています。
CTやMRIなどの精密医療機器、そして数々の専門用語が飛び交っています。
一般の方にもわかりやすい様に現役の放射線技師(@medical_presen)が感想と解説を述べます。
第2回のテーマは??(ネタバレ注意)
今回はメインテーマの他に、サブテーマがいくつか散りばめられていたように思います。
メインテーマは、
右膝に痛みを抱える男の子。レントゲンでは異常所見は見当たらない。
本人は「大げさに痛がった」とはいうものの、確実に痛みはあり、その原因は??
といったところ。
サブテーマとして、
- MRIを受ける方の閉所恐怖症の問題
- 画像検査時の既往歴の重要性
- 検査予約の混み具合
いったところでしょうか??
では、以下にサブテーマから順に解説していきます。
MRIを受ける方の閉所恐怖症の問題
MRIはかなり狭い筒の中に入るため、狭いところが苦手な閉所恐怖症の方は検査を受けることができない場合があります。ドラマでは、ご婦人が飼い犬の写真を見ながら検査を受けたいとのことだったのですが、MRI室内にスマホは持っていけません。強力な磁場で壊れるからです。
また、衣服の金属(チャックなど)も検査の障害になるので、僕の施設では基本的に検査着に着替えてもらっています。今回は、ご本人が閉所恐怖症を自覚していますが、ご自身が閉所恐怖症を抱えていることに気づいていない場合があります。初めてのMRI検査の時にそれが発覚するということも珍しくはありません。
そういった方は、MRIの筒の中に入ると急に具合が悪くなってしまう、といった症状がでます。そのようなケースに対応するためにMRIの検査では、ナースコールみたいな機能を果たすブザーを持ってもらいますので、ご安心を。男の子の検査の場面で、ブザーを握りしめているので確認してみてください。

画像検査時の “既往歴” の重要性
腹痛を起こした、お母さんがレントゲンで異常がなかったものの、以前に癌を患っていることがわかって、造影剤を使ったCT検査が追加になりました。癌の再発がないか確認するためです。結果は軽度の膵炎でした。
画像検査では撮るのにも、読影するのにも、患者さんの過去の病歴(これを既往歴といいます。)は重要です。基本的に、ここをごまかす患者さんはほとんどいませんが、検査時にどの様に使うのか?ということを説明します。
例えば、検査オーダーに「大腸ガンの手術 一年後」とかあれば、肝臓やリンパ節に転移がないか、手術部位に再発がないか、などチェックするべき項目が明確になりますし、それがわかりやすい様に画像を作りこめます。
具体的には、薄いスライスで再構成したり、色々な方向から観察できるようにしたり、などです。手術支援様に3D画像を作る場合もあります。
ということで、外来でも問診は正確に答えましょう。
検査の混み具合
今回、唯織は脳ドックの患者さん待たせて男の子のMRIを行いまいした。検査予約をするとなると、かなりの日数待たされるような描写でした。患者さんにとっては、すぐに検査ができて、結果がわかる方が良いのは重々承知です。ですが、病院経営としては検査が朝から晩まで予約でビッチリ入っている方が良いわけです。
いろいろと細かいルールがあるのですが、基本的には外来で行われる検査は出来高制となっており、やればやるほど病院の収益となります。なので、健全な経営の病院ほど、検査予約運んでいる状態と考えられます。特にCTやMRIは昼休みもなく、一日中ず〜っと稼働しているという施設は多いです。
今回の“スーパー技術”
今回、男の子はレントゲンで所見がないにも関わらず痛みを訴えていたました。
当初は、成長痛として考えられていましたが、家族に癌が多いため、
「もしかすると腫瘍が隠れているかも??」と考えて、
まずは、レントゲンで可能な限り小さな変化を検出ようと考えました。
そこで行なった方法が、左右の写真をフィルム上でぴったり重ねて読影するという方法です。
重ねることで、微妙な違いがわかるわけです。
杏ちゃんがフィルムを重ねる時、レントゲンにRとLと書かれていると思います。
左右を重ねることによって、ぴったり同じにならない”差”の部分、
つまりは、病変を疑う部分が浮かびあがるという考え方です。
R=Right (右)
L=Left (左)
の意味です。
言葉にすると、ともて簡単なのですが、実際に行うとなるとかなりのハードルがあります。
まず、左右の足をぴったり同じ形で撮影しなければならないです。
撮影されていたのは、膝から下の部分、いわゆる“下腿”といわれる部分です。
左右を別々にとるので、これをぴったり位置合わせするのは至難の技です。
さらに、写真の濃度もぴったり合わせることが必要です。
これらの条件を全て満たす写真を作った技師長のスーパーテクと言えるかと思います。
今回の唯織は放射線科医としての側面の方が強かった印象ですね。
想像してみてください。反転してぴったり重なるように、自分の左右の手を別々にスマホで撮る。
これ、めちゃくちゃ難しくないですか??


ドラマ内の補足が必要かもと感じた部分
なんで両足撮っていたの??
男の子が痛がっていた足は右側です。ですが、写真は両方とっていました。
なぜでしょうか??
これは、左右を比較して読影するためです。
成長期の骨や関節の成熟の度合いは、個人差がものすごく大きいのです。また、子供の骨には骨端線といった軟骨でできた線があり、これが骨折と紛らわしいのです。
なので、明らかな外傷など以外では、子供のレントゲン撮影は比較のため左右両方撮影することが多いです。
瀬尾卓生. 注意すべき四肢外傷. 小児外科 48(2): 196-201, 2016.
なんでMRIからやらないの??
診断をつけられたのはMRIを行なったからであって、”先にMRIをやっちゃえば良かったのに、なんで??”と疑問を持たれるかもしれません。
しかし、MRIはレントゲンと比べて、時間も費用もかかります。
今回は骨肉腫の診断でMRIが有効な症例ですが、実際は相当稀な疾患で、実際、10歳前後は成長痛が一番多く、ほとんどはレントゲンだけで診断可能です。
なので、費用対効果からレントゲンがファーストチョイスになります。
ほんとは、MRIはもっと色々撮ります。
今回、両足を前の方から観たMRI画像が提示されていました。それのT1強調像で診断がついたわけですが、本来、もっとたくさん撮ります。
少なくともT2強調像とT1強調像を二方向(前から観たのと、輪切りのと)、拡散強調像、さらに必要に応じて造影剤を使った検査も行います。
SNRと分解能って??
最後の方で、院長先生が「SNRと分解能のバランスが絶妙」というセリフがありました。
こはれ一般では使われない表現なので解説します。
まず、「分解能」。これは画像の細かさです。解像度と同じ意味です。細かければ細かいほど鮮明な画像と言えます。
次に「SNR」。これは「Signal Noise to Ratio」の略です。信号雑音比といいます。
ノイズが少なく信号が多い方が良い画像です。SNRが低い画像はざらざらした状態になります。
ラジオにノイズが乗るのと同じことが画像でも言えるのです。
SNRと分解能の両方が高い画像が良い画像と言えますが、現実はそう甘くはないのです。
同じ撮像時間で考えた時、分解能を上げると、SNRが下がる。
そして、SNRをあげようとすると分解能が犠牲になるおとが多いです。
これを“トレード・オフ”の関係と言います。
放射線技師は撮像時間、分解能、そしてSNRのバランスを考えながら、最適解を模索するのが仕事です。
さらに、病変の種類や大きさ、患者さんの年齢なども考慮しなければいけないため、頭の中では、様々なファクターをトレード・オフさせながら撮像条件を調整するわけです。そのバランスが絶妙とのことですね。
特に今回は、小児の検査なので、短時間で撮らないと、子供は動き始めてしまいます。
制限された撮像時間のなかで、SNRと分解能のバランスを考えながら、良質な画像を提供する。
これは技師の腕前次第です。
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