画像診断、そして、どマイナー医療職の放射線技師をテーマした平成最後の月9ドラマ ラジエーションハウスが放送されています。
CTやMRIなどの精密医療機器、そして数々の専門用語が飛び交っています。
一般の方にもわかりやすい様に現役の放射線技師(@medical_presen)が感想と解説を述べます。
第10回のテーマは??(ネタバレ注意)
今回は二つのテーマが並行して走っていましたね。まずは骨折を繰り返す子供のお話。泣き止まなくて心配になった母親が病院へ連れてきた。以前にも骨折での受診歴があり、骨折を繰り返す原因が何か隠れているのでは??というお話。
もう一つは杏ちゃんのお父さんの話。以前から体調が悪く「うつ病」と診断されていた。半年前に画像検査は一通り行ったようだが、目立った異常所見はなかった。久しぶりに、ラジエーションハウスに顔を出した時に、頭痛を起こして倒れてしまった。頭痛は一時的なもので全身状態は至って良好とのこと、特に問題なし、との判断だった。
今回の“スーパー技術”
今回は乳児のCT検査を適切に施行したことでしょう。子供の検査は本当に難しいです。呼吸は止まらないし、動くし、被写体は小さいし、こちらの言うことは理解してくれないし、被ばくさせたくないし、、、誤解を恐れずに言うと、画像検査をするにおいてネガティブな要素が全て揃っています。
そんな中で適切な検査を行うには、疾患に対する知識と技術と、人手が必要です。ラジハのドラマではいつも一個の検査室に人が集まりすぎで「暇なのか??」みたいな観られ方もあるのですが、乳幼児の場合には、周りのサポートの人手があった方が安全かつ適切に検査ができます。
今回は、造影CT検査で脊髄に接する“神経芽腫”という病気が発見されました。これは神経細胞にできる癌で悪性の病気です。今回のケースでは、腫瘍が脊髄を圧迫して、足に麻痺が出ている。呼吸の状態も心配される状況でした。脊髄は脳からの指令を体の各基幹へ届ける通り道ですので、そこが圧迫されると神経伝達がうまくできず、麻痺などの症状がでます。そういうことがあるから、レントゲンの検査の後に抱っこされている子供足に力が入っていなさそうなのを唯織は気にしていたのですね。子供が泣く場合は、足を全力でバタバタさせることが多いですからね。
そして、脊髄や脳が障害されると機能の完全回復は現状では難しいです。なので、腫瘍が浸潤する前に手術で取り除く必要があります。特に、呼吸筋が完全に麻痺になると救命は難しくなります。なので、ものすごく急いでいたわけです。手術がうまくいって何よりです。
補足が必要かもと感じた部分
AIと画像検査
原作もご覧の方に解説です。ピレス教授からのお誘いは原作ではAIを用いた診断ソフトの開発でした。ということでAIと画像検査について私見中心に述べますね。
AI(artificail inteligence)の医療分野での応用はものすごく期待されている仕事です。学会でもAIの演題はここ数年増え続けているようです。どこかの偉いAI関連の権威の方が「数年後に放射線科医の読影業務はAIに取って代わられる」と豪語したようで、大きな話題になりました。しかしながら、現実はそうたやすくないと個人的には考えます。
AIの特徴として、パターン認識は得意中の得意なので、“所見を拾う”作業にはもってこいです。しかし、イレギュラーなものに対する対処は苦手な分野です。現場での判断で困るの“イレギュラー”な場合なので、そこには人の力が必要だと考えられます。つまり、簡単な所見はAIに拾ってもらって人間が確認、難しい所見は人間が徹底的に考える、という住み分けができるのでは??と予想しています。
ただでさえ、日本の放射線科医は人手不足と言われており、AIと共存することで業務効率があがり見落としが減るとなればお互いにWin-Winと思います。
隠れた病気を探すのは難しい
今回の乳児の症例では、骨折がくる病によるものでした。くる病は日光に浴びる時間が不足し、ビタミンDの生成量が不足することにより病気です。室内での遊びばかりであったのと、紫外線対策が仇となった結果でした。
くる病が判明した帰りのバスで、容態がおかしくなり救急搬送されてきました。唯織は、先ほどの検査終了時に乳児の下肢の動きが少ないことに違和感を持っていたので、レントゲンを見返したところ、脊椎の近くに腫瘍がありそうということで、CTを撮影となりました。CTの結果、神経芽腫という診断が下り、手術となったわけです。
この様に、一つに病気のうらにもう一つ別の病気が隠れている場合、はじめの病気に目がいってしまい、もう一つを見逃してしまう、ということが往々にして起こってしまいます。特に救急の場合はそうです。
ギリギリだった実体験を一つ紹介します。重症の脳梗塞の症例です。脳梗塞はなんらかの原因で血管内を血液が通れなくなり、脳への血液供給が足りなくなる病気です。多くは、心臓から血栓が飛んだり、プラークという粥状の物質が原因で血管がつまります。治療は、血栓を取り除くカテーテル治療や血をさらさらにするお薬を使います。
ごくごく稀にですが、胸の血管の病気である大動脈解離で脳梗塞になる場合があります。大動脈解離は血管の壁が裂ける病態ですが、その血管が裂ける状態が頸の血管までおよぶと、その上にある脳への血流が止まってしまう場合があります。
脳外科がこういった急患を受けたとして、脳だけに注目すると脳梗塞と同じ画像所見、身体症状です。脳梗塞の診断となります。このまま、血液をさらさらにするお薬を使うとどうなるでしょうか??胸の血管が避けているので大変なことになります。多くの場合、解離が進行して、心タンポナーデになり、致命的なことになります。国内で同様の事例で、死亡例も報告されております。
当院では、胸部もチェックできるようなシステムにしているので、その患者さんの大動脈解離はきちんと診断されて、すぐに胸部心臓外科で手術を行い元気に退院してくれました。(ただし、色々ギリギリな判断ではありました。)
この様に、大きな病気の場合はそちらに着目してしまうので、どうしても別の病気へ気がまわらなくなりがちです。今後、我々も気をつけて画像をチェックしなければいけないという教訓となった事例です。しかし、こういう病気を判断するのは、”画像”でみることの真骨頂かもしれませんね。
本当にあの症例にCTの方が良い??
正直なところ、あの乳児の症例に造影CTは疑問です。夜間の救急であの症例が来たとして、CTとMRIどちらを選ぶかと考えたら、ぼくならMRIを選択します。理由は以下の通りです。
- 被曝がない
- 造影剤なしでも情報量が多い
- 脊髄との境界がCTよりわかりやすい
- 造影するとしても、造影剤の腎臓への負担やアレルギーの発生頻度がCTと比較して少ない
- MRIは呼吸の動きと同期して撮影することも可能
上記の理由から、ぼくなら”MRIを撮りましょう”と進言します。
とはいえ、このドラマってMRIとマンモに偏ってるとこあるので、この辺でCTの出番作っとかないと、という感じがしました、、、、まあ、ある意味納得の展開。脊髄の評価はMRIが鉄板化しているので疑問を抱いた技師も多いのでは??と推察しています。
杏ちゃんのお父さんの病気
さて、次週につながる内容ですが、杏ちゃんのお父さんの病気のフリがたくさんありましたね。ネタバレになるので明言はしませんが、もはや確定しています。
- うつ病(と似た)症状
- 比較的、急な症状の出現
- 脳内に明らかな異常はなし
- 立ち上がる度の頭痛
- 頸への外傷
- その後の飛行機(気圧の急激な変化)
- 漏れてるから、、、
ヒントを整理するとこんな感じ。放射線技師あるあるです。次週の予告も含めれば、確定なのですがこれに当てはまる病気がありますので、まだピンと来ていない方は、考えてみましょう。ちなみに造影剤が漏れると床がベッタベタになって大変です。
最後に、“もう一人天才現る”のフレコミを一生懸命考えましたが、正解は鏑木先生でしたね、、、、若干の拍子抜けでした。








