肥満は糖尿病や動脈硬化などの発生リスクが上昇し、心筋梗塞や脳梗塞など命を脅かす重大な病気の発症に繋がります。
また、重い体を支えるために関節にダメージがたまります。
そして、大腸、子宮などのがんの発生リスクが上昇すると言われています。
そんな悪いことばかりの“肥満”が画像検査でどのように影響するか解説します。
ダイエットで普通体型をキープしよう
病院での各種画像検査の精度に、体型は大きく影響します。
“肥満の方の検査は難しく、画質も落ちてしまう”というのが正直なところです。
つまり、検査の精度を保つもの難しいわけです。本当に悪影響しかありません。
もっとも根本的な理由としては、画像検査では、体を透過したX線、もしくは、お薬の注射による体内からの放射線、磁力と電磁波により体内から発生した電磁波を利用するわけです。
いずれも、“体”を通過するものです。
通り道に“分厚い脂肪”という障壁があると、当然邪魔になってしまいますよね??

X線検査
人体を透過したX線を利用した検査です。レントゲン写真や、CT検査がこれにあたります。
レントゲン
通常の体型の人と比較して肥満の場合は、被爆線量が増えて、画質が低下する、という悪循環が起こります。
体が大きい人のX線検査では“強いX線がたくさん”必要です。
まず、肥満の人を検査するためには、X線の透過力を上げる必要があります。
X線の発生装置に負荷ふる電圧でコントロールします。
また、X線は体内と通過中にどんどん減衰していきますので、たくさんのX線を照射する必要があります。
また、X線が体内を通過中にあちこちに飛び散り(散乱線という)、画像のシャープさを損ねる原因になります。
散乱線はX線の電圧が強いほど、量が多いほど、体が厚いほど、発生が多くなり画質へ影響を与えます。
CT検査
CTでは、もともと高い電圧を使っているので、X線の量でカバーすることになります。
具体的には、照射する時間を延ばしたり、X線発生量を増加させたりします。
しかし、それにも限界があって肥満体型の場合、X線量が不足した画像になってしまうことが多いです。
X線量が不足したCT画像がどうなるかというと、ザラザラした画像になります。
専門的にはSNR(Signal-noise-to ratio)が悪い、といいます。一般の写真の光量不足と一緒ですね。
真っ暗な中でスマホのフラッシュをつけて写真を撮るより、しっかり光をあてて撮った方がコントラストははっきりしますよね。
それと一緒です。
位置合わせも難しい、、、
さらに、レントゲンでは、“ポジショニング”という大切な作業があります。
例えば、膝関節であれば正面からと、横から(側面)からの二方向から観察するのが基本です.
正しい、正面と側面にするためには、膝のお皿や、足全体の角度を見ながら調整するわけです。
丸太のような足の場合は、その難易度は格段に上がります。
これは膝に限らず、すべての部位に当てはまることです。
体の大きい人のレントゲン撮影は本当に難しいです。
個人的には、太った人の肩などは至難の技と感じています。
核医学検査
これは人体に注射したお薬からでる放射線を検出して画像化します。
PETや脳血流SPECT、骨シンチグラフィが有名な検査です。
これは、レントゲンやCT検査とX線の通り道が逆になるわけで、体大きい場合はやはり不利です。
PETではお薬の量は体重でコントロールするので、体重が多い場合はお薬の量が多くなり、被爆量が増えます。
それでも体内から出てくる放射線量が足りない場合は、データを収集する時間を延ばして対処します。
つまり検査時間が長くなってしまいます。
そうすると今度は検査中に動いてしまうリスクが上がります。
MRI検査
磁場と電磁波を使うMRIでも肥満体型の検査が難しい場合が多いです。
まず、第一に“そもそも撮れない”という事態があります。
MRIはかなり狭い筒の中に入って検査を受けるわけですが、そもそもこの筒に入れないくらい体型が大きい方に遭遇することがあります。
こういった場合は、素直に事情を話して検査を中止するより他ありません。
また、MRIはCoilという装置を撮像部位に装着して検査します。
しかし、あまり体が大きいとこのCoilがうまくつかなくて困ることがあります。
Coilなしでも画像は撮れるのですが、画質は著しく低下します。
また、このCoilはカバーできる範囲(Coil感度という)が決まっており、皮下脂肪が大量にある場合は、Coil感度が目的の臓器まで届かなくて画像がザラザラになってしまうことがあります。
その場合、撮像時間を長くすることで、ある程度は補うことができますが検査時間がとても長くなってしまったり、患者さんが動きだしてしまったりと大変です。
体重と造影剤
CTやMRIでは造影剤というお薬を使用して検査精度を高めることができます。
このお薬の量は、体重によって調整します。
体重が重い人ほどたくさんの造影剤が必要になるわけです。
CTでは、体重により多い時には100ml以上の造影剤を使いますが、造影剤を注入する時間は体重に関係なく一定の場合が多いです。
そうすると、高体重の人はものすごく早いスピード造影を入れる必要があり、そのために太い静脈ルートが必要です。
ですが、肥満の方はルートをとるのが難しく何回も注射される、といったことが実臨床の現場では頻繁におきます。
さらに、造影剤の量もどこまでも使えるわけではないので、ある程度の体重(およそ80kg程度。施設のプロトコールで多少変わる)で造影剤が足りない状況が生まれます。
そうすると、前述のように画像はザラザラ+造影剤は足りない、で非常に観察しにくい画像になってしまうわけです。

肥満は本当に悪循環
肥満は、がん、脳血管障害、心筋梗塞などいろいろな疾患のリスクを増やします。
なので、肥満の方は画像検査できちん精査されるべき方々です。
しかしながら、いろいろと手を尽くしても、大きな体型の人の画像検査には限界があります。
我々も日々検査技術を向上する必要がありますが、できるだけ普通の体型をキープするように心がけましょう。