画像診断、そして、どマイナー医療職の放射線技師をテーマした平成最後の月9ドラマ ラジエーションハウスが放送されています。
CTやMRIなどの精密医療機器、そして数々の専門用語が飛び交っています。
一般の方にもわかりやすい様に現役の放射線技師(@medical_presen)が感想と解説を述べます。
第3回のテーマは??(ネタバレ注意)
今回のテーマは乳がんの画像診断。
乳がんは11人に1人がかかると言われ、決して珍しい病気ではありません。実際、病院で画像検査に携わっていると乳がんに絡んだ検査(検診、術前検査、術後のフォローアップ)などでいらっしゃる患者さんは多いです。
がん治療の基本は「早期発見、早期治療」なので、いかに早い段階でみつけるかということに関して、放射線技師も大きく関わります。撮影の技術や精度の向上を目的とし“検診マングラフィ撮影認定放射線技師”という認定資格が制定されていまいます。
劇中では、乳がん検診を受診した方がマンモグラフィ上は「異常なし」との判定。しかし、唯織は画像をみて高濃度乳腺(デンスブレスト)であること、さらに、近親者に乳がんの既往のあることを知り、エコー検査を受けるように勧める。その後、エコー、MRIと検査は進み、非浸潤性クモの巣状の乳がんが発見されるといった流れです。
今回の“スーパー技術”
実は、今回はこれといったスーパ技術はありません。どなたにも適応できる検査を組み合わせて総合的に乳がんを発見するところまでたどり着いたということです。画像検査は普通こんな感じですすみます。ひとつひとつの検査を有機的に組み合わせていきます。
一方で検診では考え方が少し変わります。厚生労働省は2年に一回の視触診+マンモグラフィの検診を勧めています。これは、検診では“費用対効果”が重視されているためで、高額なMRIを真っ先に行うとコスト面での妥当性がなくなってしまうのです。検診はある程度の費用で最大限の余命獲得を目指すわけです。
検診の対象年齢は、対象年齢は40歳以上からとされていますが、家系にがん患者が多い場合などはこの限りではなく、20代であっても毎年の受診が推奨されます。40代以下は乳腺組織が多くデンスブレストの割合が多いので超音波を併用した検査を活用した方が確実と考えます。
参考文献) 古澤秀実.マンモグラフィ デンスブレストにどう対応するか (筆者一部改変)
患者さん側からすると、“あれもこれも検査して大変”という意見は重々承知です。実際、検査にかかる費用も高額で患者さんの負担になります。しかし、各検査機器は一長一短で、それぞれの特徴を組み合わせることで“正しい診断”につながります。
ということで、今回は乳がんの検査で、マンモグラフィ、エコー、MRI、それぞれでどのような特徴があるのか解説します。
マンモグラフィ
乳房のレントゲン検査。乳がん診断の基本中の基本。
乳房を板で可能な限り圧迫して撮影する。
圧迫することによるメリットは以下の通り。
- 乳房が伸ばされることにより、正常乳腺と病変部分の重なりが少なくなる。
- 厚みが減るので照射線量を減らせる。つまり被曝も減る。
- 呼吸による動きを抑えることができる。
マンモグラフィが検診に使いやすい理由は以下の通りです。
- 検査が短時間かつ安価
- 乳房全体を観察可能
- 装置が比較的安価で導入しやすい
- 前回の検査との比較が容易
マンモグラフィーでチェックするのは以下の項目です。
- 全体の乳腺の分布(乳腺が多いor少ない、乳腺の構築が整っているor乱れている、など)
- 腫瘍陰性の有無
- 石灰化の有無
マンモグラフィの最大の利点は“細かい石灰化”を検出できることにあります。
エコーとMRIでは正確に石灰化を正確には検出できません。特に、悪性の石灰化陰影は、1mm以下の非常に細かい石灰化の場合があり、これはマンモグラフィーでしか検出できません。
マンモグラフィは、この細かな石灰化を検出するため非常に素子の細かい検出器を使って撮影されます。
また、マンモグラフィはシ技師の技術差が出やすい写真で、上手に撮るためには相当な練習が必要ですし、痛がる患者さんをうまく説得しながら撮影する話術も必要です。
悪性を疑う石灰化
腫瘍を疑う陰影
参考文献) 白石昭彦. マンモグラフィ読影の基本
さて、検診では鉄板のマンモグラフィですが、若年者(20〜40代くらい)の方には必ずしも相性が良いとは言えません。理由は以下の通りです。
- 被曝がある。
- 乳腺が多く全体に高濃度(デンスブレスト)の方が多い。(50%以上)
- 腋の筋肉が発達しているので、挟むと痛みがでやすい。
若年者では、せっかくお金を払って、痛い思いまでして検査を受けたのに病気を見つけにくい、、、といったことが現実では多々あるのです。
高濃度乳房(デンスブレスト)では、全体が“白く”なっている状態です。
なので、同様に白く写る腫瘍や石灰化の影は相対的に観えにくくなるわけです。
充分に圧迫が可能であればこれを解消できますが、上述のように痛みで圧迫が不十分となるケースも多く、照射線量の増える、といった悪循環が実在するわけです。こういった問題を補うためにエコーやMRIを活用します。
あくまで個人的見解ですが、デンスブレストやマンモグラフィで一定以上の画質を得ることが難しい場合は、きちんとご本人に伝えるべきと、考えています。エコーやMRIといった他の代替え手段があるので、それをフル活用するべきと思います。
エコー(超音波検査)
超音波の反響によって画像を得る方法。
現在、マンモグラフィと併用した検診の有用性が報告されている。
どちらかというと、臨床検査技師さんが担当されている施設が多い。
メリット
- 被曝がない。
- 装置が比較的小型かつ安価で、どこでも施行可能。
- 腫瘍性陰影の検索に優れる。
デメリット
- 検査精度は術者の技量により大きく異なる。
- 画像の再現性が悪く、前回との比較が難しい。
J-START : Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial
日本で世界に先駆けて、検診でのエコーとマンモグラフィ併用の有効性を40代の女性、70,000人以上を対象として検討した結果、マンモグラフィ単体よりもエコーとマンモグラフィ併用のグループの方が正しい診断がなされていた、との結果でした。
感度 | 特異度 | |
マンモグラフィ + エコー | 91.1% | 87.7% |
マンモグラフィ | 77.0% | 91.4% |
- 感度: がんが”ある“人を“がん陽性”と正しく判定
- 特異度: がんが“ない”人を“がん陰性”と正しく判定
この結果が意味するところは、マンモとエコーの併用で、がんの見落としはかなり減るということです。
ここが一番重要なポイントです。
まずは見落とさない、とうことが早期発見では一番重要だと、ぼくは考えます、。
ただし、特異度が下がっています。
これは、がんではないものも“がん疑い”として判定する割合が増えたということです。
こういった症例をさらに調べるのにMRIが有用です。
参考HP)https://www.amed.go.jp/news/release_20151105.html
また、費用対効果の面でも有用性が報告されており、今後の検診はマンモとエコーの併用に舵を切っていくと思われますが、現状はまだまだです。
被験者の希望に応じてエコー検査をオプションとして追加できる施設もありますので、若年の方は積極的に追加した方が良いと、僕は考えます。
参考文献) 大貫 幸二.費用効果分析からみた超音波併用乳がん検診の精度管理と個別化
乳腺MRI
乳腺MRIのメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット
- 被曝がない。
- 病変の検出能力が高い。
- 病変の範囲の判定にも有用。
デメリット
- 装置が高価かつ大掛かりで施行できる施設が限られる。
- ガドリニウムによる造影が必要。
- 装置性能により画質がかなり変わる。
- 検査時間が長い(30分くらい)。
- うつ伏せの体制で行うので患者さんは結構つらい。
1990年代に欧米で、乳がんの家族に乳がん患者がいるなどのハイリスクグループにおいて、マンモグラフィよりMRIの方が病変の検出能が高いことが証明されており、乳腺MRIのガイドラインが制定され、MRIとマンモグラフィを併用した乳がんの検索も行われている。
日本では、検診へMRIを活用するために2012年に「乳がん発症ハイリスクグループに対する乳房MRIスクリーニングガイドラインVer1.0」が作成され、本人の自己負担による任意型検診として推奨されています。
参考文献)
Saslow D, et al: American Cancer Society guidelines for breast screening with MRI as an adjunct to mammography.
NCCN guidelines. Genetic / Familial High ― Risk Assessment: Breast and Ovarian, version1,2008
磯本一郎. 乳房MRI による乳がんスクリーニング
しかしながら、対象がかなり限定的なのと一般への認知度高くなく、さらに、対応可能な施設が限られるといった理由から、まだあまり普及していません。
日本での乳腺MRIの使い方は、マンモ+エコーで疑わしい病変があった場合の精密検査としての位置付け多いです。今回のドラマでと同じ使い方です。
欧米では、若年者へのマンモグラフィは、”被ばくのリスク > 検査による早期発見の効果”という考え方もあり、被ばくとは無縁のMRIへの注目は高まっているようです。そして、そこへ移行しようとするスピード感も日本とは大きく違うように感じます。
検査の支払いに国費が大きく使われる国民皆保険制度の日本と、個人加入の保険で医療費が支払われる欧米との差なのでしょうか??すべてが欧米にならう必要はないとは考えますが、希望する方がいるなら、きちんとした検査を提供できる準備は必要かと考えています。
↓乳腺MRIの画像
Katja Pinker, The potential of multiparametric MRI of the breast
画像処理も重要な技師の仕事
ドラマの終盤でMRIの検査が行われますが、画像がでるまで唯織がキーボードをカタカタとやっていますが、あればサブトラクション処理というのをしています。
造影剤を入れた後の画像の微妙な濃度変化まで検出しようとしているわけです。
また、腫瘍部分の信号の変化を観察することで悪性と良性の判断の材料にすることもあります。(上段の画像ないのグラフ参照)
このような画像処理により、得られた情報をよりわかりやすい形にしていくことも放射線技師の重要な仕事の一つです。
Jamal J. Derakhshan, Characterizing and Eliminating Errors in Enhancement and Subtraction Artifacts in Dynamic Contrast-Enhanced Breast MRI.







