画像診断、そして、どマイナー医療職の放射線技師をテーマした平成最後の月9ドラマ ラジエーションハウスが放送されています。
CTやMRIなどの精密医療機器、そして数々の専門用語が飛び交っています。
一般の方にもわかりやすい様に現役の放射線技師(@medical_presen)が感想と解説を述べます。

第7回のテーマは??(ネタバレ注意)
今回は健診のマンモグラフィで要再検査となりいらした女性について。再度、撮影したマンモグラフィでもやはり腫瘍性の陰影があったため、精密検査として超音波検査を勧められたが、検査が2ヶ月待ちと言われて、夫婦で非常に不安になっている様子。何かしてあげられることはないか??というところ。
今回の“スーパー技術”
今回のスーパー技術は、“ちょっとだけ圧迫を強くして、向きを変えて”マンモグラフィーを撮り直したことです。それで腫瘍の中心部の濃度低下がって良性腫瘍の可能性が高いとの結論づけでした。
通常のマンモグラフィでは2方向からの観察なので、どうやっても情報量が足りないわけです。足りない情報はそれまでの症例の蓄積や左右の対比でカバーするのですが、今回は相当なレアケースだったので、判断が難しかったわけですね。
ドラマ内の補足が必要かもと感じた部分
検査待ち問題は簡単な解決方法がみつからない
これはあくまで私見ですのでご承知いただければと思います。
患者さんからの視点からすると必要な検査を可能な限りはやく済ませて、診断を確定させ、適切な治療を受けたい、というのは重々承知の上です。自分の父親の時に、強くそう思いました。
一方で、病院側からみると、外来での検査は出来高制でやればやるほど利益になるので、予約をビチビチに詰めて機械をまわした方が収益になります。
さらに、病院経営では患者さんを集める必要があるので、検査が詰まっているところに、検査が必要な患者さんがさらに来るという形です。
朝早くから夜まで検査をすれば、待ち時間は短くできるとは思いますが、今度は我々の業務体制の問題が出て来ます。働きかた改革が提唱されている昨今では長時間労働を強いるのは周囲の反感を買いますし、かといって人員を大幅に増やすと病院経営の大きな負担となってしまう、という循環です。
診療報酬を上げればもう少しうまく組み立てられそうな気がしますが、厚生労働省は医療費を抑制したいわけです。この様に相反する事象がいくつも重なっているので、そう簡単には解決しない問題かと思います。でも、まあ2ヶ月は長いですよね。全体で良い循環に変えなければいけない課題です。
マンモグラフィでは技師の所見は重要視されます
唯織が甘春先生に意見を求められていましたが、あの様な場面は実臨床で、けっこう目にするシーンです。マンモグラフィでは“技師の所見”は重要視されていて、撮影直後に技師が所見はまとめてレポートし、それを土台に読影医がさらに病変の検索を進めると行った流れです。マンモグラフィの認定試験にも、読影のテストが含まれています。
「カテゴリー4、もしくは5。構築の乱れあり」と述べていましたが、これが所見です。ちなみカテゴリー4以上は悪性を疑う病変です。医師はこれを元に、どんな腫瘍かを判断し、病名をつけて診断を行います。ただし、まだデータが少なく確定がつかない場合は「悪性腫瘍疑い」として、次の検査に向かうことが多いです。
ちょっとしたサジ加減で検査結果はかわります
今回の鍵となったのは、“マンモグラフィの圧迫と角度を少し変えた”こと。また、軒下と裕乃で撮影した外傷の患者さんは、痛みの訴え方から骨折部位を推定して先に場所を確定させたこと。
どちらも、本当にちょっとしたことです。その場の機転で、追加撮影をしておくかどうかで診断が大きく変わることは臨床では沢山あることです。法律では、「医師の指示のもと撮影を行う」となっていますが、実臨床、特に、救急の場面では、我々の判断で追加撮影をして、事後報告という様なことも多々あります。技師の判断は重要な要素です。撮っていなければ読影できないし、診断できないのです。
理不尽に暴れる患者さんはたまに来る
特に外傷の場合にそうなのですが、「はやくしろ」とか「痛い」とか言いながら暴れる患者さんは一定の割合でいらっしゃいます。確かに、怪我をして精神的にも動揺しているし、実際痛いしで文句を言いたくなるのは良くわかります。
海外では骨折の時などは先に痛み止めをしてしまう事が多いようですね。痛みがコントロールされていた方がやりやすい場面も多いと推測できますが、軒下が今回やった様に、「患者さんの訴えから検査を組み立てる」という事が難しくなります。
これは放射線技師の重要な能力で、なにもレントゲンに限ったことではなく、CTやMRIでも患者さんの話から検査を組み立てる場面は多いです。放射線技師も、そのような洞察力や観察力、そしてコミュニケーション能力は必須ですね。
軒下の待機料 1,500円の件
裕乃が当直当番の時に軒下もオンコール待機となっており、待機料は1,500円とのことでした。当直当番一人で手に負えないくらい患者数が来たり、重症であったりした場合にオンコールが呼び出される、というわけですね。1日のうちいつ呼び出されるかわからないのに、1,500円。。。。
”めっちゃ安い”と思う方もいるかと推察しますが、こういうシステムの病院は多いです。特に大学病院や公立病院ではない私的な病院に多く見られます。実際、以前に僕が務めていた病院はオンコールのお金は発生しませんでした。0円です。
また、僕の後輩にリサーチしたところ、
- 私的な病院 消化器中心 100床クラス 待機料1,000円 + 実働の時間外手当
- 私的な病院 循環器中心 250床クラス 待機料なし + 実働の時間外手当
とのことでした。かなりブラック臭がしますね、、、
オンコールの時は、とにかく気持ちが落ち着かないです。食事もお風呂もサクッと終えないといけませんし、髪を洗っている途中で呼ばれたら最悪です。
もちろん、夜中も呼ばれますから、寝不足になることも多いです。はっきり言って嫌な仕事ですね。好きにはなれないです。
では、”なぜこんなに安いのか??” という疑問がでますね。
実はオンコール待機は、業務とみなされず、雇い主に給与の支払い義務は発生しないのです。
労働基準法に定めがなく、オンコールの取り扱いは全て、その事業所の判断となります。なので、ラジハの病院では、むしろ”1,500円も払ってやってるんだから”と強気に出ても良いと言えば良いわけです。
ちなみに、当直と夜勤にというくくりには、手当が発生するように労働基準法で定められています。ただし、この場合は院内で業務と行う、院内で待機しておくなど縛りがもう少し厳しくなります。軒下のようにデートにはいけません。
お金発生しないのだから、普段と同じように自由に過ごして良いんでしょ??と考えてしまいますが、実際、オンコールで呼ばれた時に、到着までものすごく時間がかかったり、検査で患者さんと接するので、グデングデンに酔っ払っていたりするとまずいわけです。(実際、そういうヤツがいた。)
こういうことをすると、法律には引っかからなくても、同僚から見放されて仕事にならなくなりますね。では、オンコールの時にどうやって過ごす必要があるか、を以下にまとめます。
- 遠くには出かけられない(実体験では、呼ばれてから30分で到着と言われていた)
- お酒は飲めない。
- 夜中も30分以内に来い。
- 行きはタクシーOK。帰りは公共交通機関で帰れ。(実体験)
- PHSはいつも手元に。お風呂の中も。
- 夜中も容赦なく呼ばれる。家族を起こさないようソッと出る。
上記のことが、半ば強制的に義務化されて1,500円程度は安すぎると、僕は思っています。しかし、多くの病院がこんな現状です。
もし仮に、オンコールのお金が”0円”場合、上記の事柄を全部無視して、どこかに遊びに行って、お酒飲みまくっていても良いとなるのかもしれません。実際には、倫理的??良心の呵責??でできませんが、、、、
こういった事は、なにも放射線技師だけではなくて、多くの医療技術職で同じような感じになっていると思います。可能であれば、色々な職種の方からご意見いただきたいです。
もちろん、医療行為の司令塔である医師も同じです。先日、一緒に海外出張した医師はミラノまで電話がかかって来て、”これは大変だな〜”と思いました。
実際、救急医療や夜間の診療、急変時の対応の裏にはこういった事柄が隠れています。スタッフはかなり理不尽な献身を求められている、と思うのは、僕だけでしょうか??
しかし、人件費を抑制しないと病院経営が成り立ちにくいのもまた事実で、現状の医療体制は”国は医療費抑制”し、”患者さんは高度な医療”を求め、医療スタッフはそれらを実現するために必死にもがいているのが現状としてあります。
http://www.medical-presentation.com/radihouse-001




